« July 2005 | メイン | September 2005 »
●西方見聞録其乃壱拾参: 桐野美耶子の晩夏 第一回 - '博愛'より'偏愛'
August 31, 2005
4泊5日滞在したPRIMA HOTEL (11 Csengery u., VII , Budapest / www.hotels.hu/prima) からブダペスト国際空港への道のりは目に映る景色全てがアウトライン化して全てが実態のないような、しかしそれでいて歴史の重さは確実に存在している - 街の中心地から空港までの足代が340フォリント(約188円)という実態の極めて希薄な貨幣価値がその代償となる道中のイメージそのものを空っぽにしてしまったのか、だとすれば僕の魂は自分の思っている以上に拝金主義に汚染されていることになります。
89年に所謂「自由」を勝ち取ったとされる東欧諸国ですが、我々の存在自体の「目的」が空欄である限りそれは自由という名の座敷牢にすぎないというのはポスト実存主義の21世紀を生きる我々には分かり切った事実なのでは。そんな不安満載の僕たち・わたしたちの存在に最もお手軽に「目的」を与えてくれるのが「価値観のバリュー・セット」こと「宗教」。そして直接生命に危機感を与えるという類の貧困とはほぼ無縁の生活を送っている21世紀の所謂「先進国」におけるもっともポップな宗教といえばCapitalism、資本主義でございます。ルネッサンス期、最も優れたクリエイター達は教会の庇護の元、一般大衆の神への畏怖の念を焚きつける宗教画を描きまくって生計を立てておりました。同じく今日最も優れたクリエイター達(or 狡猾な人達?)は広告代理店で大企業の庇護の元、一般大衆の購買意欲をひたすら焚きつけるクリエイティヴな宣伝やキャッチ・コピーを昼夜創り続けております。両者人々の不安を利用するという共通点を持つわけで結論:
"イツノ世モ人々ノ不安ハ換金可也"
で2005年8月現在そんな資本主義の究極の形を体現しているグロい街といえば空前の好景気に湧いているバブリーな桐野美耶子嬢。僕の人生に最も大きな影響を与えた、かつて人類史上最大規模だった世界帝国の首都にほぼ6年ぶりに戻って参りました。ブダペスト-倫敦間のフライトは遅延するわその間激しい偏頭痛に襲われるわで散々でした。しかも例のテロの直後でもあり更に過去個人的にも諸々のトラブルに苛まれた事もありで入国審査はかなりの困難が予想されました。「もし忌みグレでトラブりそうだったら直ぐに仏蘭西に行こう!」と決心していた僕。そんな米国と並んで世界で最も厳しくタチの悪い英国のImmigration Officerとのやりとりは以下の通り;
(パスポートを念入りにチェックした後)
I.O.: What is your purpose of visiting the UK?
Ken: Sightseeing.
I.O.: How long do you intend to stay here?
Ken: Two weeks.
(Bang!)
でおしまい(所要時間約15秒)。6ヶ月滞在可の観光ヴィザをいただき約15年ぶりに降り立ったGatwick国際空港。そのままThemesLinkという電車に飛び乗って倫敦市中のKings Cross駅へ直行。そこで見た風景は......
僕がこの地球上で最も愛している造形物であり倫敦の風景には絶対に欠かすことが出来ない筈のRoutemaster(旧式二階建バス)が何処にも見あたらない!
2012年オリンピック誘致の為バリアフリー都市計画を推し進めていた倫敦では車椅子の人が乗れない旧式二階建てバスはどんどん姿を消していきました。これらバスはスエズ運河を越えてインドのムンバイ等で第二の人生を送るらしいのです。それはそれでバス自身にとってはある意味幸せな余生を送ることなのかもしれません。しかし!様式美を重んじる者として言わせていただければこれはCultural Genocide(文化の大虐殺)に他ならないのでは。「自分はあの愛おしいバスに乗った最後の世代なのだ」という寂しさを体全体で感じながら倫敦の滞在が幕を上げたのです。
「詐欺!」と叫びたくなるような夏とは思えない許しがたきひんやりとした空気にも、その寒さでカチカチに乾燥している犬の糞だらけの歩道にも、その歩道に蔓延する魚とジャガイモを揚げているだけで決してグルメチックとは言えないレストラン発の香りにも、そんな油の香りが立ちこめるあらゆる様式が混在したハチャメチャな街の風景にも、その風景の中で目にする「ギリギリな」人達にも、そんな「ギリギリな」人達が飲んでいる生ぬるいビールにも、僕にとってそこには概知の価値観を超越した「愛おしさ」があるのです。トレンディなボキャを引用すれば「フェチ」なのかもしれませんが、そんな俗悪な言葉でこの抑えようがない気分の高揚をまとめる事は一耽美主義者として「拒絶」致します。
「'博愛'より'偏愛'」に重きを置いている僕 - 声を大にして一言:
世界で一番だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい好きな街!
(ふぅ〜)
はい、失礼致しました。
因にこの真ん中の家は僕がかつて住んでいて、こよなく愛したお家です。場所はAngel, Islington N1
正に純然たるエネルギーの浪費に等しいこの'偏愛'、しかしその「偏愛」の中にこそ我々の存在「目的」の空欄を埋めるヒントが隠されているのではという予感が致します。
つづく


